心に残る山行 Index
赤石岳の懐深く食い込む名渓
 
南アルプス・赤石沢

◆コース: 椹島〜赤石沢〜百間洞〜赤石岳〜椹島
◆期間:  1999年8月9日(月)〜8月14日(土)
◆同行者:Dさん、Iさん


●8月9日(月) 晴れ、夜雨

 赤石沢を撮影したかったが、自分の技術を遙かに越えるレベルの沢であることから、Dさんを誘ったところ二つ返事でOKという話になった。Dさんの古くからの友人のIさんも加わり3人で行くことになった。
 朝7時に中山駅で拾ってもらうことにしていたが、渋滞のため到着が大幅に遅れ、7時40分頃に漸く合流することができた。東名高速も渋滞で時間がかかり、予定していた12時の送迎バスを諦め、今日は15時30分のバスで椹島まで入るだけにする。時間に余裕が出来たので、静岡から井川へ向かう途中で脇道へ入り、口坂本温泉に寄る。ゆっくりと風呂に入ったあと、近くの食堂で「天丼」を食べたが、ご飯の上に乗っていたのは正体不明の山菜のフニャフニャの天ぷらだけで、意表を突かれた。500円ではあったが、まずかった。
 畑薙ダムの堰堤上に駐車し、送迎バスで椹島へ。ロッジでは3人で1部屋に入ることができた。夕食の後、談話室(南アルプスふれあいセンター)で天気予報を見ようとニュースが終わるのを待っていたところ、19時半に「閉館だよー」とテレビを消され、部屋から閉め出されてしまった。「天気予報が見たいのですが」と言っても、「決まりなんだからだめ。明日も明後日も大雨!」という憎まれ口をたたく。いつものことながら、予想を裏切らないT社の最悪のサービス精神に感服する。
 夜になって本当に雨が降り始めた。明日、赤石沢へ出発できるかどうか不安がつのる。


●8月10日(火) 曇り時々雨

 5時半に朝食。雨はさほど強くはないので、入渓することにする。沢登りスタイルを整え、雨具は着ないで出発。牛首峠から階段を下り、憧れの赤石沢へ第一歩を踏み出す。しばらくは浅い流れをじゃぶじゃぶと進むが間もなくイワナ淵となる。地名通り、足元を大きな岩魚の影が走り、驚かされる。ニエ淵は泳いでの突破を試みるが、頭を後ろからザックに押されて溺れそうになり、慌てて引き返す。結局左岸を高巻く。積極的に水に入ったため下半身をが濡れ、雨で上半身が濡れ、寒い。途中から防寒のために雨具を着る。次々に現れる悪場は、Dさんが必要に応じて補助ロープを張ってくれたので、苦労しつつも順調に進む。一通りの悪場が終わり平凡な流れを行くと、やがて巨大な堰堤が現われた。中央のコンクリートの斜面を登ると、深く澄んだバックウォターが現れたが、飛び込む勇気はなく、右側の垂直の梯子を登り、上流側の岩場を残置ロープにすがって下りる。少し上流の右岸、北沢出合の対岸付近の飯場跡が格好な天場となっており、少し時間は早いがテントを張ることにする。
 午後は一旦雨があがり、時折小雨が降る程度になった。Iさんは持参の釣り竿で岩魚釣りに挑戦。釣果は一匹だけだったが、大きな岩魚を釣り上げた。流木を集め、テントの前で焚き火を囲み、岩魚を焼きながらウイスキーを飲む。このひとときがたまらない。久しぶりの原始の香り高い山行である。沢音を聞きながら話をするうちに、やがて夜のとばりが下りてくる。明日の天候回復に期待して、早目にシュラフに入る。


●8月11日(水) 曇り時々雨

 明け方に星が見えたが、明るくなると昨日と同様に雨が降り始めた。ラジオからは、大阪付近で1時間に40mmもの猛烈な雨が降り、日中になって東海地方に移ってくるという不気味な予報が流れている。増水を恐れ、一旦停滞を決める。ところが、9時の気象通報で天気図を書いていると、熱帯低気圧は北北西へ進んでおり、東海地方の大雨の予報が信じられない。しかも、時折晴れ間すら見られる様になる。協議の結果、次のBPまではコースタイム2時間程度なので、とりあえずそこまで進むことにする。
 ものすごいスピードでテントを撤収し、パッキングを済ませて出発。そのころにはまた雨が降り始める。やがて門の滝が姿を現す。滝をバックに、Dさんをモデルに撮影してから、高巻きに入る。右岸から滝となって流れ込む白蓬沢の手前、白蓬沢右岸の岩壁をぐんぐん登る。ホールドは小さいながらもしっかりとしており、10年ぶりのV級程度の岩登り。下を見れば、かなりの高度感。40mは登っただろうか。岩から急な草付きをさらに登り、急斜面の踏み跡を右へ慎重にトラバースし、白蓬沢F1の上を横切る。さらにトラバース気味に登り、門の滝の落ち口へ下って行く。滑りやすい急斜面をブッシュや枯れ木をだましだまし使いながら下るが、結構恐ろしかった。再び赤石沢に戻り、今日の核心部は越えたと思ったが、大ガラン手前の滝で行き詰まった。両側が岩壁で巻き道も見つからず、しばらく観察していると、滝右側のスラブの上の方に残置シュリンゲを発見。とても届く高さではないが、近づいてみるとハングした洞穴の中から残置シュリンゲをアブミのように使って登り、トンネルを抜けると、上のシュリンゲに到達できることがわかった。Dさんが空身でトンネルの上まで登り、外のスラブからザックを引き上げる。さらに残る二人がトンネルを這い上がり、3人が集結後さらに残りの4m程を同じ手順で登って滝上に出ることができた。その先、大ガランの横断は足元が不安定ではあるが、予想したほどの悪さではなく問題なく通過する。間もなく右岸にBP発見。流れからあまり離れていないが、いざとなれば裏手の斜面に逃げることは可能なので、ここにテントを張ることにする。
 今日も焚き火を楽しむ。夕暮れ時になって青空が広がり始めた。明日こそ晴れてくれるだろうか。


●8月12日(木) 晴れ、朝一時雨

 やっと晴れた。水量は昨日よりも格段に少ない。身支度を整え、きらきらと輝く流れの中を進んでゆく。すぐに巨岩帯の急登となり、ルートを見きわめながら次々と大岩をよじ登る。シャワーを浴びて一段上がると、行く手に赤い岩の上にずっと続く流れが美しい。奥の方に、大ゴルジュ入口と思われる岩が日を受けて光っているのが印象的。三脚を立て、交代でモデルになり、撮影タイムとする。大ゴルジュ入口で右岸に渡り、獅子骨沢右のガレを一段登った所で小休止。ゴルジュが良く見える位置だが、残念ながら中は木が茂っておりあまり様子は分からない。ガレの途中から踏み跡を追って右へ登る。足場が滑りやすいのに加えて急傾斜なので、緊張する。ひとしきり登り、小尾根を回り込んだ所で踏み跡を失ったが、しばらくのルートファインディングで巻き道を発見。そこから先は登山道とも言えるほど立派な「道」を辿って、あっさり間ノ沢出合へ下り立った。覚悟していた難所を順調に通過できたことで、ぐっとムードが明るくなる。大雪渓沢の出合で昼食タイム。順調に溯行を続けると、赤石沢最大の大淵が現れた。「右岸をへつる」という資料の記述に従って、Dさんがルートを探るが、意外に悪そうである。その間、Iさんと二人で赤石沢探勝記念に水泳を楽しむ。少し中央寄りに泳いで行くと、すぐに背が立たない深さとなり、水の冷たさも恐ろしいほどで、慌てて引き返す。結局、大淵は右岸を巻いて越えた。すっかり水量が少なくなった沢を進むと、やがて奥赤石沢との出合に着いた。テント1〜2張分の快適なビバーク地がある。奥赤石沢の奥に今回初めて見えた主稜線(聖岳)を眺めながら、2回目の昼食をとる。残る悪場は大滝のみ、ここも巻き道は簡単と、楽勝気分で百間洞に入る。しかし、5mと8mの滝の右からの高巻きが予想外の大高巻きとなり、3人とも疲れ始める。なんとか沢に戻ったが、いよいよ現れた最後の大滝も巻き道がなかなか見つからない。漸く見つけた踏み跡も藪が濃く、途中でルートを失う。それでもDさんが草深いバンドを発見し、へとへとで滝の落ち口に降り立った。やれやれと休憩してから、再び歩き始める。すっかり穏やかになった浅い流れをざぶざぶと歩いていると、足元を頻繁に大きな岩魚の影が走る。今日中に百間洞露営地に着きたいので「あーもったいない」と言いながら先を急ぐ。左斜面の上の方に古い山の家を見て、くねくねと何度か曲がると、ついに百間洞山の家に到着した。
 早速ビールを買い(700円!)、上のテント場でテントを張る。聖岳の夕景がとてもきれいだった。


●8月13日(金) 晴れ後雨

 快晴の朝を迎えた。「やっと本格的に天候が回復した」ということで、勇躍出発したが、百間平へ登る途中でガスが湧き始める。急登が終わり百間平の一角に飛び出した頃にはどんよりとした曇り空になってしまい、大展望を期待していただけに、落胆も大きい。赤石岳への最後の急登は濃密なガスの中。大勢の登山者で賑わうガスの山頂を素通りし、椹島下降点で昼食にする。小雨が降り始めた。以後、降ったり止んだりの中を、北沢源頭〜富士見平〜赤石小屋へと歩き慣れた道を下る。赤石小屋で2回目の昼食。ここから1ピッチ下ったあたりから雨は本降りとなり、雨具を着る。時折、雷鳴も聞こえる。最近流行のストックで良く耕された登山道は、見事な泥沼と化し、沢靴がよくスリップする。降り続く激しい雨に休憩もままならず、黙々と歩き続けること2時間で、椹島に下り着いた。
 全身ずぶ濡れで精神的にめげてしまいロッジ素泊まり案も出されたが、金を払ってまた不愉快な思いはしたくなかったので、予定通りテントにする。雨の中で何とかテントを張り終え、中に飛び込み、着替えてからビールで乾杯。漸く人心地がついた。


●8月14日(土) 雨

 朝になって雨足が弱まった頃合いを見計らって、テントをたたむ。林道が閉鎖されないか不安だったが、送迎バスは運行された。No.1〜3の整理券を手に入れ、がらがらに空いた一番バスで帰途についた。

冷たい水の中を行く



門ノ滝を偵察するD氏



11日の幕営地
釣りをする人、焚き火の準備をする人




12日の朝、雨が上がった



日が射してきた!



赤石沢の名の由来、赤い岩
前方に大ゴルジュ入口の岩が見える




大ゴルジュの入口を巻道から覗き込む



コバルトブルーの大淵



百間洞に入ると初めて稜線が見えた



百間洞露営地から夕照の聖岳



百件平への登りから見た大沢岳
この後、再び雨に・・・


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