赤石岳 −3000m峰の四季をめぐる− ギャラリーTOPへ

2024年9月13日〜9月19日 富士フイルムフォトサロン 東京にて開催


赤石山脈は、南アルプスと呼ばれることの方が多いかもしれない。静岡県と長野県の境に位置する赤石岳(3,121m)は、文字通り南アルプスを代表する巨大な山だ。びっしりと山腹を覆う常緑樹の森を抜けた山頂直下に、日本最南端のカール(氷河の痕跡)を擁している。

春、たっぷりと雪が残る稜線に強烈な日差しが降り注ぎ、ゴールデンウィークを過ぎると急速に雪解けが進む。夏、カールの底に高山植物が咲き乱れ、秋はダケカンバの黄色とナナカマドの赤が織りなす見事な紅葉に目を奪われる。厳冬期、さながらヒマラヤ襞(ひだ)を纏(まと)ったような山容の美しさは圧倒的だ。太平洋側気候に属し、降雪量が比較的少ないため、夏になれば雪渓は痩せ細り、美しい湖沼も湿原もない。豊かな雪渓を散りばめる北アルプスのような華やかさはないが、山の大きさ、奥深さは南アルプスならではのものだ。

そんな赤石岳に魅せられ、実際に撮影に取り組んでみると、サラリーマン(当時)にとっては非常に困難な対象であることを痛感した。登山口が奥深くアプローチに時間がかかること。登山口から撮影ポイントまでが遠いこと。山が大きく体力を要すること。特にシーズンオフは交通手段がなく、登山口まで自分の足でたどり着く以外に方法がない。土日に有給休暇をプラスしてなんとか撮影山行を実現しても、全行程の中で実際に撮影できる日は限られ、天候に裏切られることも少なくない。 とてつもなく撮影の効率が悪いのだ。

日本百名山の一座ということもあり登山者からは人気が高いものの、山が賑わうのは夏山シーズンだけ。他の季節は静寂そのもので、数日間の撮影山行で全く登山者と出会わないことを何度も経験した。ケガや病気は命取りであり、行動は慎重にならざるをえない。

フィルム時代から長年通い続け、ようやく作品群を発表できるところまでたどり着いた。四季を通じた赤石岳の魅力を少しでも感じていただければ、大変嬉しく思う。


1. 朝日に染まる赤石岳(悪沢岳・5月)

ゴールデンウィークに赤石岳から荒川三山へ縦走した。毎日安定した晴天が続き、悪沢岳山頂で1泊。翌朝、一等地に三脚を立てて穏やかな夜明けを迎えた。日が昇ると、豊かな残雪をまとった赤石岳が優しく微笑んでくれた。

2. 春の雪稜(小赤石岳・5月)

ゴールデンウィークに赤石岳に登るには、積雪期ルートであるラクダの背の雪稜を登る。時間が早いと雪面が固く、遅ければ雪が緩んで足場が不安定となり、滑落に細心の注意が必要だ。稜線から振り返る雪稜は美しく、そこに続く自分のトレースを見れば達成感もひとしおだ。





3. 光さす残雪の赤石岳(百間平・5月)

南アルプスの奥深く、赤石岳西方に位置する百間平は、シーズンオフに人と出会うことはまずない。入山3日目の午後、一人だけのテントを設営した。流れる雲が影を落とし刻々と表情を変える赤石岳に、夢中でシャッターを押した。

4. 午後の光を受ける聖岳(大沢岳・5月)

大沢岳は赤石岳と聖岳の展望台だ。ゴールデンウィークの聖岳北面は、まだ真っ白。午後の陽に浮かび上がる尾根ひだが優美な美しさを見せてくれた。男性的な赤石岳の山容とは好対照だ。





5. ダイヤモンド赤石岳と荒川三山(大沢岳・5月)

大沢岳で朝を迎えた。東方に位置する赤石岳はシルエットになりあまり面白くないが、この日は赤石岳の山頂近くから太陽が顔を出し、ダイヤモンド赤石岳になってくれた。赤石岳の左には荒川三山も見えている。

6. 朝日に染まる(椹島下降点・5月)

赤石岳山頂の避難小屋に泊まった翌朝、山頂直下の稜線で日の出を迎えた。雲海から陽が昇ると、足元の凍った雪面が真っ赤に染まった。自分も真っ赤に染まりながらシャッターを押した。





7. 夜霧流れる大沢岳(赤石岳・5月)

夕方になってガスってしまい夕景の撮影はできなかった。日没後しばらくするとガスが消えてきたので、再び小屋を出て三脚を立てた。大沢岳の手前、百間平にかかる霧がゆっくりと流れながら消えてゆく。静かな夕暮れの情景だった。

8. 夏へ向かう赤石岳(中岳・5月)

5月下旬、三伏峠から荒川三山まで縦走した。この年は雪解けが早く、稜線では残雪は少ないが芽吹きはまだという、少々寂しい風景だった。1週間の山行中、一人の登山者にも出合うことはなかった。





9. 天空にそびえる荒川三山(小赤石岳肩・7月)

小赤石岳の肩は荒川三山の絶好の展望台。鷲が羽を広げたような山容が格好いい。三山といっても、前岳は中岳の肩のような所で、一つの山というほどの高まりではない。荒川大崩壊地の浸食が凄まじく、いずれ前岳は無くなってしまうかも?

10. 雲間より(千枚岳・8月)

夜中に激しい雨が降ったが明け方には止み、雲間から星が見えていた。期待に胸をふくらませて撮影ポイントへ上がる。空は晴れていたが、主稜線の山々は雲に包まれたままだった。しばらく待機していると、一瞬雲に穴が空き、赤石岳の緑の山襞を朝日が照らした。





11. 雲間の光(千枚岳・8月)

この年の夏は天候が不順で、晴れ間はあっても山頂は雲に隠れたままで、毎日午後には雨が降った。この日も早朝から三脚を立てたが山は姿を見せず、代わりに雲間からの光が山腹の緑を照らしてくれた。南アルプスの奥深さを感じさせる作品となった。

12. 輝く新緑(北沢源頭・7月)

まだ暗い3時半に赤石小屋を出発し、早朝の北沢源頭の急斜面を登ってゆく。ちょうどこの辺りが森林限界となっており、高山植物と広葉樹の緑が美しいお気に入りの場所だ。朝の光を浴びるダケカンバの若葉が鮮やかだった。





13. 深緑の森(東尾根・8月)

北アルプスと比べて南アルプスの森林限界は高く、コメツガ、シラビソなど常緑針葉樹の深い森の中を黙々と登る時間が長くなる。なかなか展望が開けないが、この緑濃く山深い雰囲気も南アルプスならではのものだ。

14. ハクサンイチゲと赤石岳(北沢カール・7月)

北沢源頭の急斜面を喘ぎ登ると、稜線直下で北沢カールの縁に出る。初夏の頃には、カール底にハクサンイチゲやシナノキンバイなどのお花畑が広がる。花期が短いようで、登るタイミングによっては全く花が見られないことも。



 


15. 盛夏の赤石岳(前岳南斜面・8月)

荒川三山から赤石岳への縦走はゴールデンコースと呼ばれ、南アルプス南部では人気が高い。登山道は、前岳から荒川小屋へ下る途中で赤石岳を正面に望む広大なお花畑を通過する。赤石岳を代表する景観だ。

16. 斜面を彩る(前岳南斜面・8月)

「荒川のお花畑」と呼ばれる、南アルプス最大のお花畑。下から見上げると、お花畑が天まで続いているような圧巻の眺めだ。近年はこの標高まで鹿の食害が及んでおり、保護のために夏期はお花畑全体が防護柵で囲われている。





17. 深緑の聖岳(百間平・8月)

赤石岳から聖岳へ向かう途中にある百間平は、砂礫とハイマツの中に登山道が延びる広大な台地だ。お花畑のような華やかさはないが、びっしりと広がるハイマツの先に緑濃い巨峰がそびえる光景に、南アルプスらしい雄大さを感じる。

18. 朝日に燃える赤石岳(千枚岳・8月)

赤石岳から荒川三山への撮影山行。好天が続いたため撮影は順調に進み、後半ではフィルムを節約しながらの撮影となった。最終日の朝に最後の1本となったフィルムで撮影したカット。これ以来、ここまで赤く染まった赤石岳を見たことはない。





19. ガス流れる山稜(百間洞付近・8月)

百間洞で泊まった翌日、百間平への上りで夜が明けてきた。それまで山は雲に包まれて見えていなかったが、急に雲が動き出し稜線が姿を現した。三脚を立てて何枚もシャッターを切っているうちに、すっかり晴れ上がった。

20. 立ち昇る銀河(赤石小屋・7月)

午前3時に目を覚ますと満天の星空。小屋裏の高台に上がるとちょうど赤石岳の上に天の川が延びていた。星空の撮影では街の明かりの影響を受けることが多いが、ここは近くに大きな街が無いため空がとても暗く、星が多く感じられる。





21. 錦秋の赤石岳(北沢源頭・10月)

この年は紅葉の大当たり年で、荒川三山から赤石岳への縦走の途上、色鮮やかな紅葉に何度も立ち止まってシャッターを押し続けた。赤石岳からの下りは、さながら紅葉の海に入っていくような感じだった。

22. 秋の訪れ(北沢源頭・10月)

明け方まで降った雨が上がり、赤石小屋から山頂を目指す。北沢源頭の谷へ入ってゆくところでガスが切れてきた。私のお気に入りのダケカンバの色づきは今ひとつだったが、谷間の冷気に深まりゆく秋を感じた。





23. 朝の光をうける聖岳(赤石岳・10月)

赤石岳山頂で朝を迎えたが、好天ながら東の空に雲があり、なかなか山に日が当たらない。まだか、まだかと待つことしばし。太陽が雲から出てくると、聖岳の紅葉が鮮やかに浮かび上がった。

24. 秋色の荒川三山(荒川小屋付近・10月)

荒川小屋周辺はダケカンバ、ナナカマドなどの落葉紅葉樹が多い。登山道は稜線の東側をトラバースするように付けられており、秋は紅葉の中を歩くことになる。朝日を受けた紅葉はさらに鮮やかさを増し感動的だ。





25. 雲に浮かぶ聖岳(赤石岳・10月)

好天の一日だった。午後、谷間に湧いた雲が少しずつ広がり、夕方には一面の雲海になった。聖岳が島のように浮かんでいる。この時期、山頂の小屋はすでに営業を終え、人っ子一人居ない。素晴らしい夕景を独り占めだった。

26. 輝く紅葉(北沢源頭・10月)

秋の北沢源頭はダケカンバの黄色、ナナカマドの赤、ハイマツの緑と沢山の色が混じって華やかだ。天候に恵まれたこの日、トップライトをうけて紅葉が最高潮に輝いていた。





27. 紅葉に染まる東尾根(椹島下降点付近・10月)

赤石岳へのメインルートとなる東尾根を稜線から見下ろすと、尾根上部、ラクダの背のダケカンバが見事に色づいていた。これから、右上に見えている赤石小屋に向かって、この紅葉の中を下ってゆくのだ。

28. 秋の夕日(赤石岳・10月)

赤石岳山頂の日暮れ。雲海に浮かぶ大沢岳の先に夕日が沈んでゆく。澄み渡った秋の空に浮かぶ雲が美しく色づき、雲海は金色に輝いた。





29. 寒気の贈りもの(大聖寺平・10月)

この日は冷え込みが強く、朝起きるとテントには霜が降りてバリバリに凍っていた。大聖寺平では足元の小さな植物にふわりと付いた霜が美しかった。ウラシマツツジの鮮やかな赤色がよいアクセントになった。

30. 冬支度する雷鳥(赤石岳・10月)

夕景撮影のためのロケハンで山頂付近を歩き回っていると、一面のウラシマツツジの中で2羽の雷鳥がしきりに何かをついばんでいるのに出合った。羽は冬毛に生え替わり始めていた。





31. 厳冬の赤石岳(千枚岳・1月)

前日はラッセルに明け暮れ、なんとか千枚小屋まで登ってきたものの疲労困憊。それでも絶好の好天を逃すわけにはいかず、自分を奮い立たせて千枚岳山頂に立つ。雪煙の先に聳える赤石岳の姿は神々しいまでに美しかった。

32. 凍てつく森(東尾根・1月)

風雪が続き、3日間テントを除雪し続けた。厳冬の南アルプスでこれほど悪天が続くことは珍しい。撮影を諦めて下山する。中腹の樹林帯にもたっぷり雪が積もり、木々は雪まみれになっていた。





33. 目覚める厳冬の赤石岳(富士見平・1月)

赤石岳はどこから眺めてもボリュームのある山容だが、とりわけ富士見平から間近に見上げる姿は迫力満点。朝日に染まった姿はとりわけ美しく感動的だ。

34. 朝日に染まるシュカブラと赤石岳(千枚岳・1月)

夜明け前から星景を撮影し、そのまま朝を迎えた。-15℃の中で冷え切った体に朝日が当たると、じんわりと暖かさが伝わってくる。足元のシュカブラが美しく色づいている。太陽のありがたみを感じる瞬間だ。





35. 幻想の光(富士見平・1月)

夜明けとともに、それまで稜線を隠していた雲が動き始めた。急いで三脚をセットしていると、赤石岳の下の方から雲が切れ、弱い光が山腹を照らし始めた。一瞬の光景に夢中でシャッターを押した。

36. 冬の光と影(富士見平・1月)

穏やかな晴天の一日となり、富士見平で終日撮影を楽しんだ。時間とともに赤石岳の山襞の影が強くなり立体感を増してゆく。光の変化を楽しみながらの贅沢な冬の一日。





37. 雪煙舞う稜線(冨士見平・1月)

富士見平は主稜線の東側に位置するため、北西からの季節風の直撃を受けることはなく、比較的風が弱いことが多い。この時も穏やかな日だったが、稜線では激しく雪煙が上がっていた。

38. 厳冬の大沢岳と中央・北アルプス(聖岳・12月)

赤石岳と聖岳の間に位置する大沢岳は、標高は3,000mに満たない地味なピークだが、展望を楽しむには絶好の位置にある。以前は直接大沢岳に登るルートがあったが、廃道になってしまったのが残念だ。





39. 雪煙染まる日暮れ(千枚岳・1月)

朝は三脚を立てられない強風で大変な撮影だったが、午後になると風は次第に弱まり、穏やかな日暮れを迎えた。ちょうど赤石岳の後ろに太陽が沈んでゆく。時折、足元をサラサラと粉雪が走っていった。

 



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